数学II / 本質理解型教材
前提知識ゼロ向け。三角比(sin, cos, tan)は知らなくてもOK。ゴールは「用語を自分の言葉で説明できる」「なぜそうなるかが言える」の2つ。計算練習は演習アプリ側でやるので、ここでは出てきません。
観覧車のゴンドラの高さ。スピーカーから出る音の空気の揺れ。1年の気温。どれも同じパターンが何度も繰り返される変化です。
ところが、これまでの道具では表せません。直線(1次関数)は一方向に進むだけ、放物線(2次関数)は一度上がって下がるだけ。「ずっと繰り返す」を描ける関数がまだ手元にないのです。
その道具が三角関数です。この単元では「角度」を作り直すところから始めて、繰り返しを式で扱えるようになるまでを追いかけます。
半径1の円の上を点がぐるぐる回る。その点の位置(座標)を角度で追いかけると、回り続けるかぎり同じ値が自然に繰り返されます。「繰り返し」を円の回転から取り出す——これがこの単元ぜんぶを貫く1つの考えです。
「単位円」という言葉はこの章の最後で正式に導入します。まずは角度の準備から。
小学校以来、角は「2本の線のひらき具合」でした。これを「どれだけ回転したか」に読み替えます。すると角の世界が一気に広がります。
このように「回転量」として拡張した角を一般角と呼びます。向きだけ見れば \(30^\circ\) と \(390^\circ\) は同じですが、「何周したか」の情報を持てるのが違いです。
「度」は1周を360等分するという人間の約束です(1年≈360日に由来すると言われます)。円そのものに合わせるなら、もっと自然な測り方があります。
半径1の円周は \(2\pi\) だから、1周が \(2\pi\) ラジアン。半周(\(180^\circ\))が \(\pi\)。ここさえ覚えれば変換はいつでも作れます(度に \(\frac{\pi}{180}\) を掛ける)。例: \(60^\circ=\frac{\pi}{3}\approx 1.05\)。
半径 \(r\)、中心角 \(\theta\)(ラジアン)の弧の長さは \(l=r\theta\)。掛けるだけです。度で書くと \(l=2\pi r\times\frac{\theta}{360}\) とごつくなる。「掛けるだけ」で済むのは、弧の長さで角を測っている(定義の言い換えだ)からです。
例: 半径2mの円弧を \(60^\circ=\frac{\pi}{3}\) ぶん歩くと \(l=2\times\frac{\pi}{3}\approx 2.1\)m。
この先(数III)で三角関数を微分すると、ラジアンのときだけ式が最短の形になります。物理で回転の速さを表す角速度もラジアン毎秒。数学と自然科学の共通語はラジアンで、度は日常用の単位と役割が分かれていきます。
数Iの三角比は「直角三角形の辺の比」でした: \(\sin=\frac{高さ}{斜辺}\)、\(\cos=\frac{底辺}{斜辺}\)。斜辺を1にそろえると、\(\sin=\)高さ、\(\cos=\)底辺、と比が長さそのものになります。
この「斜辺1の三角形」を、原点を中心とする半径1の円(これを単位円と呼びます)の中に置くと——
三角形では角は \(0^\circ\) から \(90^\circ\) までしか作れません。しかし円の上の点なら、何周しても・逆回りでも、座標は必ず読めます。これが「比」から「どんな角でも値が決まる関数」への拡張です。マイナスの値も座標の符号として自然に出てきます。
単位円上の点はつねに \(x^2+y^2=1\) を満たします(三平方の定理)。座標が \((\cos\theta,\sin\theta)\) なのだから:
これは覚える公式というより、「点が単位円の上にいる」ことをそのまま式に翻訳したものです。単位円の絵が頭にあれば忘れようがありません。
もうひとつ、\(\tan\theta=\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) は原点からその点へ引いた直線の傾きです(次の章でグラフごと見ます)。
よく使う値(単位円から読める):
| \(\theta\) | \(0\) | \(30^\circ\ (\frac{\pi}{6})\) | \(45^\circ\ (\frac{\pi}{4})\) | \(60^\circ\ (\frac{\pi}{3})\) | \(90^\circ\ (\frac{\pi}{2})\) |
|---|---|---|---|---|---|
| \(\sin\) | \(0\) | \(\frac{1}{2}\) | \(\frac{\sqrt{2}}{2}\) | \(\frac{\sqrt{3}}{2}\) | \(1\) |
| \(\cos\) | \(1\) | \(\frac{\sqrt{3}}{2}\) | \(\frac{\sqrt{2}}{2}\) | \(\frac{1}{2}\) | \(0\) |
の上を回る点の「高さ」(\(\sin\theta\))を、回した角 \(\theta\) を横軸にして記録していくと、波の形が現れます。
1周(\(2\pi\))回ると点は元の位置に戻るので、\(\sin(\theta+2\pi)=\sin\theta\)。グラフでは同じ形が \(2\pi\) ごとに繰り返します。この「同じ形に戻るまでの横幅」を周期と呼びます。\(\sin\)・\(\cos\) の周期は \(2\pi\) です。
スライダーで角 \(\theta\) を回すと、単位円上の点と右側の波が同時に動きます。「回転の高さを横に記録したものが波」を体感してください。
\(\tan\theta=\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) は、原点から単位円上の点へ引いた直線の傾き(横に1進むと縦にいくつ上がるか)です。
絵で見るなら: その直線を \(x=1\) の壁までのばしたとき、壁に当たる高さが \(\tan\theta\)。
\(\theta=90^\circ\) では直線が真上を向くので、\(x=1\) の壁には永遠に当たりません。分母で言えば \(\cos 90^\circ=0\) で割れない。だから \(\tan 90^\circ\) は定義されないのです。グラフはそこで縦に発散します(漸近線)。
点が半周(\(\pi\))進むと、点は原点をはさんで正反対に来ますが、同じ直線の上にあります。傾きは同じ。だから \(\tan\) は半周ごとに同じ値に戻り、周期が \(\pi\) になります。
基準の波 \(y=\sin x\) に4つのつまみを付けると、あらゆる波を表せます:
| つまみ | 波のどこが変わるか | ことば |
|---|---|---|
| \(a\) | 縦の伸び=波の強さ。山の高さは \(|a|\) | 振幅 |
| \(b\) | 横の詰め込み。1周ぶんが \(\frac{2\pi}{b}\) に縮む | 周期 \(=\frac{2\pi}{b}\) |
| \(c\) | 横ずらし=波のタイミングのずれ | 位相(のずれ) |
| \(d\) | 縦ずらし=波の中心線の高さ | — |
ここでの目標は4つの意味が言えることです(変形計算の練習は演習側で)。スライダーで、どのつまみが波のどこを変えるか確かめてください。灰色の点線が基準の \(y=\sin x\) です。
東京の月平均気温はおよそ「1月末に最低 \(6^\circ\)C、7月末に最高 \(28^\circ\)C、1年でひとまわり」。これを前のカードの4つのつまみで式にしてみます。
検算: \(m=7\) で \(\sin\frac{\pi}{2}=1\) だから \(T=28\)。\(m=1\) で \(\sin(-\frac{\pi}{2})=-1\) だから \(T=6\)。合っています。
現実のデータは波から多少ずれます。それでも「だいたい波」と見なして式にすると、まだ来ていない月の予測や、例年とのずれの検出ができるようになります。これがモデル化——数式を現実に当てはめる、という数学の使い方です。
教科書には \(\sin(-\theta)\)、\(\cos(\pi-\theta)\)、\(\sin(\pi+\theta)\)……と公式が並びますが、全部、同じ1枚の円を折り返して読んでいるだけです。
例: \(\cos 120^\circ\)。\(120^\circ=180^\circ-60^\circ\) はy軸で折った位置だから \(\cos\) だけ反転して \(\cos 120^\circ=-\cos 60^\circ=-\frac12\)。同様に \(\sin 150^\circ=\sin 30^\circ=\frac12\)(高さは折っても同じ)。
角 \(\alpha\) 回してから、さらに \(\beta\) 回す。到着点は角 \(\alpha+\beta\) の点です。この点の座標を、\(\alpha\) と \(\beta\) それぞれの \(\sin\)・\(\cos\) で書けるのが加法定理:
単位円上の角 \(\alpha\) の点と角 \(\beta\) の点の距離の2乗を2通りで書きます。座標で展開すると \(2-2(\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta)\)。一方、2点の間の角は \(\alpha-\beta\) だから、余弦定理で書くと \(2-2\cos(\alpha-\beta)\)。等しいと置けば:
残りの3つ(\(\cos\) の和、\(\sin\) の和・差)は、前のカードの対称性で \(\beta\) を \(-\beta\) に変えたり、\(\sin\) を \(\cos\) にずらしたりするだけで全部出てきます。
加法定理に \(\alpha=\beta=\theta\) を入れると \(\sin 2\theta=2\sin\theta\cos\theta\) が転がり出ます。同じ要領で、2倍角・半角・3倍角・積和・和積——この単元の後半に出てくる公式はぜんぶ加法定理1本から作れます。個別に暗記する必要はなく、「必要になったらここから作る」で足ります。
確かめ: \(\sin 75^\circ=\sin(45^\circ+30^\circ)=\frac{\sqrt6+\sqrt2}{4}\approx 0.966\)。75°はほぼ真上なので1に近い値。妥当です。
驚くべき事実: \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) をどんな割合で混ぜても、結果は崩れずに1つのsin波のままです。
新しい波の強さ \(r\) は、係数の組 \((a,b)\) を矢印(ベクトル)と見たときの長さ。のずれ \(\alpha\) はその矢印の向きです。
加法定理を逆から読むだけです。\(r\sin(\theta+\alpha)\) を加法定理で開くと \(r\cos\alpha\cdot\sin\theta+r\sin\alpha\cdot\cos\theta\)。つまり \(a=r\cos\alpha\)、\(b=r\sin\alpha\) と置けたら勝ち——それは \((a,b)\) を長さ \(r\) と向き \(\alpha\) で言い直せるか、という話で、いつでもできます。
例: \(\sin\theta+\sqrt3\cos\theta=2\sin(\theta+\frac{\pi}{3})\)。\(\theta=0\) を入れると左辺 \(\sqrt3\)、右辺 \(2\sin\frac{\pi}{3}=\sqrt3\) で一致。
青(\(\sin\theta\))に赤(\(b\cos\theta\))を混ぜます。紫(合計)がいつまでも「1つのsin波」の形を保つこと、\(b\) を動かすと紫の高さ \(r\) とタイミングだけが変わることを見てください。
たどってきた流れ:
角を「回転量」にする(一般角・弧度法)
↓
単位円の座標として sin・cos・tan を作り直す
↓
横に開くと波(グラフ・周期)
↓
波を操る(振幅・周期・位相)/現実のデータに当てはめる
↓
波を重ねる・回す(対称性・加法定理・合成)
角を「どれだけ回転したか」で測ったもの。1周超・逆回り(マイナス)もOK。
半径1の円の弧の長さで角を測る方法。\(180^\circ=\pi\)。弧の長さは \(l=r\theta\) と「掛けるだけ」になる。
原点中心・半径1の円。角 \(\theta\) の点の座標が \((\cos\theta,\sin\theta)\)。円上にいることの式訳が \(\sin^2\theta+\cos^2\theta=1\)。
原点からの直線の傾き。\(\tan\theta=\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\)。90°では定義されない(壁に当たらない)。周期は半周 \(\pi\)。
波が同じ形に戻るまでの横幅。\(\sin\)・\(\cos\) は \(2\pi\)、\(y=\sin bx\) なら \(\frac{2\pi}{b}\)。
波の強さ(縦の伸び)。\(y=a\sin x\) の山の高さ \(|a|\)。
波のタイミングのずれ(横方向のずらし)。時差のイメージ。
\(-\theta\)・\(\pi-\theta\)・\(\pi+\theta\) の値は、単位円を折り返して読むだけ。公式表は不要。
「回転してから回転」の座標を、元の2角の sin・cos で書く定理。2倍角・半角・積和などの生成源。
\(a\sin\theta+b\cos\theta\) は必ず1つの波 \(r\sin(\theta+\alpha)\) になる。\(r=\sqrt{a^2+b^2}\) は係数ベクトルの長さ。